昔の自由研究を大人になった自分がめっためたにぶった切る記事を覚えているでしょうか。
実はあのとき実家の棚の奥からもう1つ自由研究を発掘していました。
オレンジの皮の秘密
中1から中2になり表紙のクオリティーが上がっています。美術の授業でレタリングを覚えたのでしょう。
だが残念!これは見掛け倒し!! 中身は驚くほどペラッペラです。
研究の動機
最近、オレンジ油を使った洗剤をよく見かけます。それを見て、オレンジ油には汚れをおとす効果があるのか調べてみようと思いました。また、発泡スチロールをとかすというのも聞いたことがあるので、それも調べてみようと思いました。
1ページ目にしてオレンジの皮の「秘密」の正体がネタバレされました。オレンジ油です。
「オレンジ油の洗剤をよく見かける → 汚れを落とす効果があるのか調べてみたくなった」という論理展開ですが、そりゃ洗剤として販売されてるんだから汚れを落とす効果はあるでしょ。いかにもあと付けな感じの動機ですね。
せめて「どんな汚れを落とせるのか気になった」とか「オレンジ以外の果物でも汚れを落とせるのか知りたくなった」とか書けばよいのに。
ちなみに、時効だから書きますが、本当の動機は
オレンジ以外の柑橘系でも汚れを落とせることは本で読んで知っているけど、知らないふりしてこれを実験でわかったことにすれば一日で自由研究を終えられると思ったから。
です。
残念ながらオレンジ油で心の汚れは落とせません。
研究の方法
準備物:下じき・油性ペン
(…果物の写真6枚…)
バナナ リンゴ レモン キウイ グレープフルーツ オレンジ
方法
①下じきに油性ペンで線を引く。
②果物の皮で線をこする。
③線が消えるか調べる。
唐突に6種類の果物たちがノミネートされてました。
一体どういう基準で選んだんでしょうね。流石に「スーパーで手当り次第に果物を手に取った」というわけではないはずです。
柑橘系の皮は汚れを落とせるという前提知識をもとに
- 汚れを落とせそう → レモン、グレープフルーツ、オレンジ
- たぶん落とせない → バナナ、リンゴ、キウイ
という「予想」を立てて選んだのなら、それを絶対に書くべきです!予想(仮説)が合ってるか実験で確かめて、結果を踏まえて考察を深めていくのが研究のあり方です。(大事なことなので前回の記事でも書きました)
研究の結果
消えない
消えない
少し消えた
消えた
消えた
消えた
だいたい予想通りですね。キウイが少し消えたのは意外。
果物の水分で汚れが落ちる可能性も否定できないので、念の為に対照実験として濡らしたティッシュペーパーでも実験してみるべきでした。
研究の考察
柑橘系の果物の皮がよく消すことができました。インターネットで調べてみると、柑橘系の果物の皮にはリモネンという液体が含まれていて、それは油性ペンなどに含まれている動物性油分を溶解する性質があるそうです。
わざとらしく今調べた感を出してますが、嘘です。最初からこうなることは知ってました。
あとインターネットで調べたなら、どのサイトを見たのかちゃんと出典を書きなさい。
研究の方法
準備物:発泡スチロールトレイ、オレンジの皮
方法
①発泡スチロールのトレイをオレンジの皮でこすって、オレンジ油をしぼり出す。
②発泡スチロールのトレイがとけて穴があくか見る。
流石に内容が薄いのではないかと本人も焦ったのでしょうか。実験2本目をぶちこんできました。
研究の結果
オレンジの皮をこすりつけたところがとけて、穴があいた。
(発泡スチロールトレイ全体の写真)
(とけた部分の写真)
聞いたことあるネタを「実際にやってみる」という試み自体は評価できるのですが、そこからもう一歩踏み込まないと良い研究にはなりません。
噂通り穴があいたぞ!バンザイ!だけじゃ駄目なんです。
研究の考察
オレンジの皮から出るオレンジ油(リモネン)には、発泡スチロールをとかす効果がある。インターネットで調べてみると、オレンジ油(リモネン)と発泡スチロール(ポリスチレン)は分子構造が似ているので混じり合うらしい。
構造式(右下)を載せて難しそうな研究をしたように見せかけてますが、ネット情報をベタ書きしてるだけ。な〜んにも「考察」できてません。はぁ(溜息)
まとめ
オレンジなどの柑橘系の果物の皮のつぶつぶ(油胞)の中に含まれているリモネンは、動物性油分を溶解する性質を持っている。また、発泡スチロールとは、分子の構造が似ているため、混じり合って、発泡スチロールがとけるという性質もある。
実験を2つやったせいで、非常にまとまりのないまとめになっちゃってますね。しかも大体「リモネン - Wikipedia」で見たことあるような内容。
反省
オレンジの皮を使って汚れをおとすと、きれいにおちるし、しかも、においもとてもよいので、汚れをおとすのには、すごく向いていると思いました。また、発泡スチロールのリサイクルにも使われているし、とても万能だと思いました。
(……小学生並みの感想……)
より良い研究にするにはどうすればよかったか?
「オレンジの皮の秘密」をより良い研究にするには一体どうすればよかったのかを本気で考えていきましょう。
そもそも大事なことが抜けている
今回の自由研究は
- 研究の動機
- 研究の方法
- 研究の結果
- 研究の考察
- まとめ
- 反省
という章立てで成り立っていました。
大事な章が抜けているのにお気づきでしょうか。
そう、「研究の目的」がないんです!!!
目的が明確でないまま突っ走ったせいで、非常にまとまりのない自由研究になってしまいました。逆に言えば、最初に目的をしっかり決めておけば研究のクオリティーはぐっと上がるというわけです。
今回の研究の目的を強いて書くならば
リモネンの性質を自分で確かめてみる
・油性インクを溶かす
・発泡スチロールを溶かす
となりますかね。シンプルでわかりやすい目的ですが、研究としてはちょっと面白味に欠ける気がします。
面白い目的を見つけるには
「目的」を考えるためには、知っていることや調べたことを羅列して、それをちょっと別の角度から見て「これは別のパターンではどうなるのだろう」「そもそもこれは何故なのだろう」と疑問を見つけるのがポイントです。
例えば、いろんな果物で油性インクの汚れを落とした実験結果をもう一度見直してみましょう。
柑橘系だけでなくキウイでも少し消えてるんですね。18年前の研究では完全に無視していましたが、これは本やインターネットには載っていない発見です。
キウイの皮にもリモネン(もしくは別の種類の油分)が含まれているのだろうか?
……という疑問が湧きます。これを研究目的にすればよいのです。
研究の目的
柑橘系以外の果物にもリモネン(もしくは別の種類の油分)が含まれているのか調べる
ただ漠然と「いろんな果物の皮で油性インクが落ちるのか試してみる」場合と違って、具体的な目的ができました。研究の軸とも言える「目的」が見つかったら、あとはこの目的を達成するために本実験を考えていきましょう!
自分で実験方法を考える
オリジナリティーのある「目的」を見つけられたら、自ずと実験方法も本やネットに載っていないユニークなものになります。じっくりと予想を立てて、その予想が合ってることを確認するにはどんな研究方法にすればよいかを考えてみましょう。
油分が含まれているのか?
果実の皮に油分が含まれていることを調べるためには、油分の性質を満たしているかを確かめればよいです。油性インクを落とす他には、水より軽いとか、燃えるとか。
例えば、果物の皮を砕いて水につけておくと、油が出てきて水の表面に油が浮かぶのではないでしょうか。この予想を確かめるために実験してみます。
もし成功すれば、その結果から何が言えるかを考え、もしうまくいかなかったら、なぜうまくいかなかったのかを考えて、実験方法を改善します。これが真の「考察」です。
含まれている油分はリモネンなのか?
油分が含まれているとわかったら、それがリモネンなのかどうかも特定したいです。
- 発泡スチロールを溶かす性質がある
- 柑橘系の香りがする
……というリモネンの性質を満たしているかを確認する実験を考えてみるとよいでしょう。
こんな感じで進めると実のある研究になるのではないでしょうか。果実だけに。
おまけ:ついでに思いついた研究案も紹介します
研究の目的を考える上で他にもいろいろと研究案を思いついたので、乱筆ながら書いておきます。うまくいく保証はありませんが、誰かの役に立てば幸いです。
なぜ柑橘系の皮にだけリモネン?
研究の動機
柑橘系の皮にリモネンが含まれていることが知られているが、なぜ実には含まれていないのだろうと気になった。
研究の目的
柑橘系の皮にだけリモネンが含まれている理由を明らかにする。
リモネンが皮に含まれていると何が嬉しいのかというのを調べる研究です。あぶらとり紙で柑橘系の皮からリモネンを吸い出し、見た目、香り、放置したときの傷み具合なんかを調べてみると面白いのではないでしょうか。
どんな種類のプラスチックを溶かせるの?
研究の動機
柑橘系の皮に含まれるリモネンで発泡スチロールを溶かすことができる。他にもどんな種類のプラスチックを溶かせるのか気になった。
研究の目的
リモネンで溶かせるプラスチックの共通点を明らかにする。
いろんな種類のプラスチックをかき集めてきて、リモネンで溶かしまくる実験です。何を溶かせるかを調べるのが目的なので、オレンジの皮ではなく市販のオレンジオイルを使う方が効率的でしょう。
発泡スチロールには ♸(矢印の三角形の中に「6」のマーク)という樹脂識別コードがついているので、これを目印に他の番号のプラスチックを探してみるとよいです。
そういえばゴム風船にオレンジオイルをつけるとゴムが溶けて割れるという実験をやったことがあります。プラスチック以外にもゴムも溶けるようですね。プラスチックやゴムに限らず、幅広く試してみたら、もしかしたら「実はこんなものも溶かせる!」という大発見ができるかもしれません。