タバコ屋といえば「角」のイメージが強くありませんか。
小説にも慣用句の如く「角のタバコ屋」というフレーズが登場しています。
洲崎町の角の煙草屋の前には二度出た。二度共硝子戸越に中を覗いて見たが、二度共例の恥かしがる娘が店に坐つてなかつた。(石川啄木『病院の窓』)
角から見た煙草屋の飾り窓。巻煙草の缶、葉巻の箱、パイプなどの並んだ中に斜めに札が一枚懸っている。この札に書いてあるのは、──「煙草の煙は天国の門です。」徐ろにパイプから立ち昇る煙。(芥川龍之介『浅草公園』)
一体なぜタバコ屋といえば「角」なのでしょうか。
実際タバコ屋は角に多いのか?
教えて!gooで「角のタバコ屋」に関する質問がありました。
専売公社時代のタバコ販売の免許取得の条件が厳しく、人通りが多くて採算の取れる場所でないと許可されなかったので、自然と集客が見込める角にタバコ屋が集中したのではないか、というのがベストアンサーです。
なるほど。
しかし、本当にタバコ屋は角に多いのでしょうか……?
東京たばこ商業協同組合連合会の「東京都たばこ屋さんインタビュー」の記事で紹介されている都内のタバコ屋100店舗を対象にして、1店舗ずつGoogleマップで角にあるかどうかを調べてみました。
結果は……
- 角:50店舗
- 角でない:50店舗
「角のタバコ屋」は全体の半数程度でした!
他業種の店舗と比較してみないと正確な議論はできないのですが、タバコ屋全体の中で「角のタバコ屋」が特別多いというわけではなさそうです。
実際、街を歩いてみると、確かに角でないタバコ屋も普通にありました。
角でないタバコ屋も、角のタバコ屋も、人通りが多い通りに面しているという点では共通しています。でもこれってタバコ屋に限らず商店全般に言えることですよね。
ちなみに「東京都たばこ屋さんインタビュー」を片っ端から読みまくって、個人的にキングオブ角だと感じたのは、インタビューNo.4の大田区南六郷にある大島商店です。全国でも特に珍しい七叉路の角にあるタバコ屋です。
▲ 七辻交差点の南側の角(郵便ポスト前)にタバコ屋がある
余談ですが、関西の人気番組『探偵!ナイトスクープ』の1988年6月18日放送回で「タバコ屋はなぜ角にあるか?」という調査が行われたようです。当時の探偵は槍魔栗三助(現・生瀬勝久)。黎明期の回なので残念ながら映像は確認できません。どういう調査結果だったのかすごく気になります。
角のタバコ屋はとても印象的
今回の疑問を解き明かすためにタバコ屋100店舗をGoogleマップで見たり、近所の商店街で現地調査してみたりして、「もしかしてこれが答えなのでは?」と気付いたことがあります。
角のタバコ屋って、めちゃくちゃ目立ってるんです!
- 面取り角にぽっかり開いた特徴的な窓口
- 専売公社時代の極太フォントで「たばこ」と書かれた真っ赤な看板
ひと目見て「タバコ屋だ!!」とわかる強烈なデザインです。
店舗によっては窓口がタイル張りだったりショーケースが壁一面にあったりして、より一層記憶に残りやすいデザインになっています。
ずばり この印象的な光景から「角」といえば「タバコ屋」というイメージが生まれた のではないでしょうか。
「角のタバコ屋」のデザインに魅せられたマニアは少なからずいるようで、2011年にデイリーポータルZで特集記事が組まれていました。筆者の"角感"愛が感じられる素晴らしい記事です。
ジャスト角に窓口がある美しさ、よくわかります(共感)
消えゆく角のタバコ屋
JT(日本たばこ産業)の「2018年全国たばこ喫煙者率調査」によると、成人男性の平均喫煙率は27.8%でした。 半世紀前の83.7%(昭和41年)と比べると圧倒的に減少しています。(成人喫煙率(JT全国喫煙者率調査)より)
喫煙者の減少により、タバコ屋も減少の一途を辿っています。
▲ 2013年5月 NTTタウンページの調査 より
僕はタバコを全く吸わないので禁煙が進むのは大いに結構なのですが、レトロな「角のタバコ屋」がなくなっていくのは、なかなか名残惜しいものです。
時代の流れで業態が変わり「角のタバコ屋」が「角のコンビニ」になる未来もそう遠くないかもしれません。