ふれっしゅのーと

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趣味に生きる30代エンジニアが心に移りゆくよしなし事をそこはかとなく書きつくるブログ

見つけた 戦前のマンホール!逓信省からNTTへ

南草津の橋梁についてネットであれこれ調べていたら、『穴と橋とあれやらこれやら』さんの「北川に架かる謎のコンクリートアーチ (滋賀県草津市野路)」という記事に辿り着きました。近所の小川にある謎のコンクリートアーチが気になった著者が「さあ、コイツはなんなのか、わたくしに教えてくだされ!」と叡智を募っている記事です。

2016年に公開された記事ですが数年間未解決のままでした。答えが気になって仕方ないので、軽い気持ちでGoogleストリートビューで現地を確認してみたところ、僕は思わず息を呑みました。

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謎のコンクリートアーチ(2018年5月26日撮影)

コンクリートアーチも気になるのですが、注目すべきは手前のマンホールです!

タコの足のような独特の地紋…

中央に見える〒マーク…

も、もしかして、これは……

 

戦前のマンホール なのでは!!!?

 

そう直感したのには、理由があります。実は過去に京都大学の正門前で同じタイプのマンホールを見たことがあるのです。

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京都大学正門前の逓信省マンホール(2015年5月6日撮影)

地紋の楕円は中が詰まっており、先程のマンホールと細部は少し異なっていますが、全体の雰囲気は似てますよね。このマンホール、周囲に飾り石が使われている点からも古さが感じられるのですが、一番のポイントは中央の「話〒電」です。

郵便局でおなじみの「〒」マーク*1と「電話」という一見おかしな組み合わせ。かつて逓信省(ていしんしょう)が郵便事業と電信電話事業の両方を管轄していた時代のマンホールです。逓信省が郵政省と電信電話省に分離する、いわゆる「郵電分離」が起こったのは昭和24年なので、このマンホールはそれ以前のものだと言えます。「電話」が「話電」と右書きになっている点からも戦前*2を感じられますね。

ちなみに京都大学逓信省マンホールのすぐ南側には、吉田キャンパスの電話拠点である自動電話庁舎が建っています。関連施設だと考えてまず間違いないでしょう。

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自動電話庁舎(キャンパスマップに建物名が載ってなくて正式名称を調べるのが大変だった)  

さて、謎のコンクリートアーチに話を戻しましょう。ストリートビューを見て「これは激レアだぞ…!」と興奮した僕は、気がついたら南草津に向かってました。場所は野路町交差点の南東にある旧東海道です。

 

現地に着いて撮影したのが冒頭の写真です。マンホールは予想通り逓信省マンホールでした。まさか草津市内の住宅地に現存していたとはなあ。感激。

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滋賀県草津市野路に現存する逓信省マンホール

京大の逓信省マンホールは「電話」が手書き風の楷書でしたが、こちらはなかなか面白い字体です。篆書風の「話」が良い味出してますね。

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逓信省マンホールの文字拡大。「話」の字体がたまらなく愛おしい。

逓信省マンホールが現存してるというだけでも珍しいのですが、この場所にはなんと川を挟んで2基も残っているのです!おまけに謎のコンクリートアーチつき!なんだここは。サンクチュアリか!?

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他にも残ってないかと周りを見渡してみたら…

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おや?これは…

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電電公社マンホールだ!!

中央のマークは「電信電話」を表す「Telegraph and Telephone」の2つの「T」を象っています。よく見ると地紋も大量の「T」です。*3

逓信省の電信電話事業を戦後に引き継いだのが電電公社日本電信電話公社)で、現在のNTT(日本電信電話株式会社)です。電電公社マンホール自体はそんなにレアでもないんですが、逓信省マンホールのすぐ近くに残っていて、戦前・戦後の通信系マンホールの移り変わりを見ることができるという点で貴重です。

電電公社マンホールがあるということは…

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やっぱりあった!

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おなじみのNTTマンホールです。

地紋のT字は電電公社時代から継承されています。中央のマークは力強い無限運動を表す「ダイナミックループ」と呼ばれるデザインなのですが、僕は受話器のコードみたいだなと思ってます。数学的には「パスカルの蝸牛」と呼ばれる曲線 
r=a \cos θ+b
です。以前このロゴで角の三等分問題を解いたことがあるので、数理曲線好きの方はぜひ読んでみてください。


今まで数多くのマンホールを鑑賞してきましたが、逓信省電電公社 → NTT と戦前から平成に至るまでの通信系マンホールが一堂(一道?)に会しているスポットは初めて見ました(そもそも逓信省マンホールが珍しいです)。欲を言えば、2017年にグッドデザイン賞を受賞した最新のテーパーダイア型マンホール蓋も設置して、この道に歴代マンホールをコンプリートしていただきたいですね。よろしくお願いします、NTTさん。

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NTT持株会社ニュースリリース 2017年10月4日「摩耗しにくく、摩耗してもひと目で分かる点検しやすいマンホール鉄蓋デザインが登場」より引用

*1:「〒」マークは、逓信省の頭文字である「テ」もしくは「T」に由来しています。

*2:本記事中では「戦前」と書いてますが、逓信省が電信電話事業を管轄していたのは「昭和24年以前」なので、厳密には「戦前もしくは昭和20年代初頭」が正しいです。

*3:マンホールの「Tの字地紋」は、昭和24年ごろに中山商店川口工場長・伊藤哲男氏によって考案されました。一次出典は未確認ですが著書『マンホール鉄蓋』(1969) か『電電ジャーナル』1984年6月号(Twitter情報より)かと思われます。