NTTのロゴマークで角の三等分問題を解いてみた

古代ギリシャの三大作図問題の一つに「角の三等分問題」があります。与えられた任意の角をコンパスと定規のみを用いて三等分するという、解けそうで解けない難問です。長き年月にわたり数学者を悩ませたこの問題は、1837年に数学者ピエール・ヴァンツェルによって作図不可能であることが証明されて、終止符を打ちました。

しかし、コンパスと定規だけでは解けなくても、もう一つ身近な「ある図形」を使えば… 角の三等分問題はいとも簡単に解くことができるのです!!

 

その図形とは…

 

NTTのロゴマーク です!!

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ちょっとこのままでは太すぎるので線を細くして使いましょう。
(…実はここでちょっと細工を加えてるのですが、ネタバレは後半で…)

まずはNTTを横向きにして、ループの先端に三等分したい角( 3\theta)をそっとあてがいます。
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続いて、下図のように左端のおへそからぐいっと斜め上の交点に線分を引きます。このとき作られる角が、最初の角の 1/3 の大きさ( \thetaになってます。はい、三等分おわり!
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三等分したい角にNTTのロゴマークを重ねて一本だけ線を引けば、あっという間に角の三等分ができてしまうのです! ここまでわずか数秒。

あとは余裕があれば、コンパスと定規をうまいこと使って、角  \theta をコピペしてあげてください。角の三等分線を引くことができます。

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一体、なぜこんなことができるのか。すべてはNTTの計画通りなのか。

 

それでは解説です。

NTTのくるっとしたロゴマークは、1985年のNTTグループ発足時に亀倉雄策氏によってデザインされました。正式名称は「ダイナミックループ」といいます。

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電話の受話器のコードを図案化したものかと思われがちですが、絶え間なく続く無限運動を表しているそうです。別にこの形でなくても始点と終点が一致する閉曲線であれば無限運動を表せそうな気がしますが。

力強く描かれた曲線は無限運動を表すループであり、一本の曲線は企業のダイナミズムを表します。NTTは創造と挑戦を繰り返し、絶え間なく自己革新を続けてまいります。( NTT西日本 - よくある質問 より)

ちなみにNTTドコモの旧ロゴにも、この曲線の一部が使われていました。

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実はこの曲線は数式で表現することができる数理曲線なのです。その名も…

パスカルの蝸牛

「蝸牛」とは「かたつむり」のことですが、ここでは「かぎゅう」と音読みします。偶然にも「電電」公社を前身にもつNTTのロゴマークが「でんでん」むしになってるんですね。

この曲線は「リマソン」や「蝸牛線」とも呼ばれ、極座標で表現すると

 r = a \cos \theta + b

と書けます。シンプルで美しい。(ただし  a と  b は正の実数)

発見者は趣味で数学を嗜んでいた公務員のエティエンヌ・パスカル。圧力の単位「Pa」に名前を残す有名なブレーズ・パスカルのお父さんです。

 

パスカルの蝸牛の形を調べる

パスカルの蝸牛  r = a \cos \theta + b a と  b に適当な値を代入して曲線の形を調べてみましょう。

(1)  r = 2 \cos \theta + 1
 a \gt b のとき、NTTのロゴマークのようにくるっとしたループが生まれます。パスカルの「蝸牛」と呼ばれる所以はここにあります。(他にもっと「蝸牛」っぽい曲線あったでしょ…)
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(2)  r = 2 \cos \theta + 2
 a = b のとき、まるっこいハートマークになります。カージオイド(心臓形)という名前がついています。
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(3)  r = 2 \cos \theta + 3
 a \lt b のとき、ただの単純閉曲線(輪っか)になります。
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パスカルの蝸牛が描かれるシチュエーションを考える

放物線なら「物体を放り投げたときに描く曲線」とか、サイクロイドなら「円を転がしたときの円周上の点の軌跡」とか、その曲線が登場する特殊なシチュエーションがありますが、パスカルの蝸牛はどんなシチュエーションで描かれる曲線なのでしょうか。

『世界大百科事典』の「曲線」の項に答えが載っていました。

原点OとA(a,0)を結ぶ線分を直径とする円周上に動点Qをとり,直線OQ上に長さbの線分QPをQの両側にとるとき,Pはこの曲線を描く。

ん?んん???

文字だけではわかりにくいので実際に図を描いてみましょう。気合いを入れて動画GIFをつくってみました。

直径  a の円を描き、左端に定点(動かない点) O 、円周上に動点  Q をとります。そして2点を通る直線  OQ (図の緑色の直線)を引きます。
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直線  OQ 上に、動点  Q から長さ  b だけ離れた位置(2箇所)に点  P_1, P_2を打ちます。この2点  P_1, P_2 の軌跡(青線)がパスカルの蝸牛になります。 
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残念ながら「ずばり身近なあの現象で見られる曲線です!」と端的に説明することはできませんでした。観覧車に乗った要人をライフルで狙撃するときにゴンドラの天井と床にできる銃痕の軌跡…とか牽強付会なシチュエーションをあれこれ考えてはみたのですが、どれもこれもボツになりました。想像力がたくましく、何かわかりやすい例が思い浮かんだ方はコメントを宜しくお願いします!

ちなみに、このような「定点と動点を結ぶ直線上における、動点から等距離にある2点の軌跡」がなす曲線のことを、総称して「コンコイド」(螺獅線*1)といいます。動点が円周上を動く場合は先に図示したように「パスカルの蝸牛」になりますが、動点が直線上を動く場合は「ニコメデスのコンコイド」とかいうかっこいい名前の曲線になります(見た目はそれほどかっこよくない)。

 

なぜパスカルの蝸牛で角の三等分問題が解けるのか

さて、冒頭に紹介した「角の三等分問題」に話を戻しましょう。

まず種明かしをすると、冒頭で角の三等分に使用した図形は、厳密にはNTTのロゴマークではありません。両方とも  r = a \cos \theta + b で表される 「パスカルの蝸牛」であることは確かなのですが、パラメータ( a, b の値)が異なっています。注意深い方は冒頭の写真を見てループの大きさが違っていることに気づいていたことでしょう。 

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  • NTTのロゴマーク(左)は  r = 3 \cos \theta + 1 ぐらい
  • 角の三等分に使った図形(右)は  r = 2 \cos \theta + 1
    (※いずれも図形を90°回転しています)

パスカルの蝸牛  r = a \cos \theta + b は、直径  a の円周上に定点と動点を置き、動点から長さ  b だけ離れた2点の軌跡なので、各部の長さは下図のようになります。

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ここで  a = 2, b = 1 とすると、ループの左端から右端までの長さ(  a - b)と、動点から蝸牛までの長さ(  b)が等しくなります。…(★)

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冒頭でおこなったのと同じように、この蝸牛に三等分したい角をあてがいます。

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すると、  a = 2, b = 1 では(★)が成立しているので、下図のように二等辺三角形が2つできます。緑色の二等辺三角形 PQ=RQ)と紫色の二等辺三角形 OR=QR)です。

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あとは初等的な幾何学の問題です。二等辺三角形の2つの底角が等しいことに着目して、∠PRA(三等分したい角)と∠QPR(緑色の二等辺三角形の底角)の関係を導きます。

∠QOR
∠OQR二等辺三角形より)
∠QPRQRP
=2∠QPR二等辺三角形より)

∠PRA(三等分したい角)
∠QOR∠QPR
=3∠QPR

ゆえに「∠PRA3∠QPR」が成立します!角の三等分完了です!!やったあ。

 

 

おまけ

NTT公式が「ただただNTT社員がNTTのロゴマークを知ってほしくて作った動画」というネタ動画をつくっていました。NTT社員の「パスカルの蝸牛」愛を感じます。

www.youtube.com

参考文献・サイト

*1:コンコイドの和名は「螺獅線」であるとされていますが、「螺獅」という言葉の意味がわからないので、私は巻き貝を意味する「螺螄(虫偏に師)」の誤植なのではないかと推測しています。