京都駅ビル石材探し 〜73種類の石材を求めて〜

京都駅ビルはただの駅ではありません。建物全体が巨大な 石の博物館 なのです。

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駅ビル正面の柱には288種類の石材標本が展示されています。説明書きによると、ここに展示されている288種類のうち、京都駅ビルには73種類の石材が使われているとのこと。一体どこにどんな石材が使われているのでしょう。その謎を解き明かすため、京都駅を愛する後輩らと一緒に、丸一日掛けて京都駅ビルを歩き回り、石材探しをしてきました!!

先行研究調査

駅ビルの柱に展示されている石材標本は288種類と多すぎるので、まずは京都駅ビルに建材として実際に使われている73種類の石材リストの入手が先決です。20年前の『地学研究』に「新京都駅ビルの石」という記事を寄稿された益富地学会館の研究員さんにお話を伺いに行ってきました。軽やかなフットワークで、図書館での記事入手から著者のアポイントメントまでさらっとこなしていた後輩ふとんくんに感服です。

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京都御苑の向かい側にある益富地学会館。日本中の岩石がひしめき合うように展示されてます。

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ギフトショップで売られていた豚肉石。ラベルも凝ってる。

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おなじみ方解石。複屈折が面白い。どんな方解石も必ずこの角度で割れるらしい。

記事「新京都駅ビルの石」に「益富地学会館には全リストがあります」といった記述があったので期待していたのですが、著者の研究員さんに伺ったところ、執筆から20年経っていてリストはもう残っていないとのことでした。あったとしても73種類ではなく288種類のリストだったとのこと。残念…(´-﹏-`;)

その代わり研究員さんから京都駅ビルの石材に関する話をいろいろと教えていただきました。駅ビル建設でどこの石材業者が儲かったのかといったブログに書けないような話もあったり。駅ビルで石材探しをすると言ったら「石材の色合いよりも粒を観察するとよい」というアドバイスを賜りました。後に実感したのですが、駅ビルの中では照明によって石材の色が変わっていて、必ずしも本に載っているような色合いになっていないのです。花崗岩の場合は粒の大きさや割合、石灰岩の場合はその模様に注目するのがおすすめです。

《後日談》石材リストがないなら作ればよいじゃない、ってことで先日ブログに288種類の石材まとめ記事を掲載しました。恐らくインターネット初公開資料。興味のある方はこちらも是非ご覧ください。ただひたすらに石材が並んでいるだけの記事ですが。この288種類のうち、実際に京都駅ビルに建材として貼られているのが73種類です。

 

石材探しの秘密道具

さあ京都駅にやってきました。いよいよ石材探しです!

私は石材探しの必携本である『原色石材大事典』を持ってきました。カラー図版で石材が種類・色ごとに紹介されています。全国建築石材工業会が監修しただけあって、石材が全国のどの建物で使われているかという情報が載っていて面白いです。

あとは事前に撮影しておいた石材288種類の写真を持ってきました!

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タブレットを持っていないので、ノートパソコンで……

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一方、後輩らはタブレットでした。羨ましくなんかないもんね!(ください)

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ちなみに、ふとんくんも私とは別に288種類の石材写真を撮っていました。

今回は あらかじめ撮っておいた石材標本の写真を実際の壁や床の石材と比較する という作戦で、石材の特定を試みました。これなら石材を少しかじっただけの素人でもそこそこの精度で石材の種類を特定できます。本当は京都駅ビルに使われている73種類の石材がピンポイントでわかればよいんですけどね。288種類も情報が与えられているのでハードモードです。特に白系の大理石は全然違いがわかりません。 

ちなみに建築ガールのぴょんさんは『現代の建築家《原広司》』を持ってきてくれました。京都駅ビルには近鉄や地下鉄や新幹線の京都駅がくっついているので、どこからどこまでが原広司設計の(73種類の石材が貼られている)京都駅ビルなのかを調べるためにこの本も役立ちました。 

 

京都駅中央口

まずは石材標本が展示されている柱の石材から。石材標本と柱の石材を直接見比べることができて簡単なので、小さなお子様にもおすすめです。

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ヴェルデフォンタイン(ベルデフォンテン)は京都駅ビル頻出石材なので必ず覚えておきましょう。

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ヴェルデ(verde)はイタリア語で「緑」という意味。大粒の斑晶が特徴的なラパキビ花崗岩です。

中央口は花崗岩の宝庫です。ヴェルデフォンタインの他にはハッサングリーンバルチックグリーン(バルチックブラウン)といった石材が使われていました。

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ホテルグランヴィア京都

ホテルグランヴィア京都の入口は、マルチカラーレッドロッソアリカンテカルメンレッドといった赤色系の石材で飾られてました。

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ロッソアリカンテ石灰岩の一種なので、化石も見つかりました。*1

中生代ベレムナイトの化石(横断面)かな?

グランヴィアは建物の中も石材の宝庫です。フランスのランゲドックが使われていました。赤地に流れる白い模様が美しいです。壁の上部にある灰色と茶色の石材で作られた縞模様も気になりますが、高い位置で照明も薄暗かったので種類は特定できませんでした。

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今回は調査できなかったのですが、ホテルグランヴィア京都のチャペル(チャペルマカリオス)では、バージンロードに大理石、祭壇に花崗岩が使われているそうです。

 

京都劇場

ホテルグランヴィアの対岸にある京都劇場では、グランヴィアとは対極的に緑色〜黒色の落ち着いた色合いの石材が使われていました。

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ネロマルキーナ(ネグロマルキーナ)は黒地に白線が不統一に流れる大理石です。ネロ(nero)はイタリア語で「黒」という意味。シックな雰囲気なので屋内でも使われていましたが、ひび割れが酷かったです。一部にガムテープも貼ってありました。実はネロマルキーナは風化が激しく表面剥離が起きやすいという欠点があります。

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ボロマルキーナ

大理石を見たら化石を探しましょう! 京都劇場のネロマルキーナにも貝の化石が含まれていました。岩をスライスしているのでMRIのようになっていて面白いです。

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京都劇場の奥にある居酒屋徳兵衛の壁には台湾蛇紋岩が使われていました。蛇の体表のような模様が面白い鮮やかな緑色の石材です。

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京都伊勢丹

伊勢丹では白の大理石がふんだんに使われていました。白い大理石は特徴を見出しにくく特定が比較的難しいです。なんとか特定できたものを少しだけ紹介します。

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南北連絡通路

京都駅ビルを南北に貫く連絡通路では、黒や白の光沢のある石材が使われていました。

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待ち合わせ場所としてよく使われているスバコ前は、イタリアのビアンコカラーラがたくさん使われていました。ミケランジェロダビデ像にも使われている大理石の代表石種です。

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地下街

京都駅ビル地下街でも石材がたくさん使われていました。おなかがすいてきて早く地下街のレストランに行きたかったので、特定したのはとりあえずこの柱だけ。

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ちなみにポルタまで行くと、そこは京都駅ビルの範囲外になります。高級石材ばかり見てきたので、目が肥えてしまい、ポルタの床が急にチープに見えてきました。

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床に使われている石材はテラゾと呼ばれる擬石です。粉砕した大理石や花崗岩をセメントや樹脂と練り混ぜて作った石材で、天然石に比べて耐久性が強いという利点があります。値段も安いので、スーパーマーケットの床などでよく使われています。

 

大階段

京都駅ビルといえば171段ある大階段が有名です。マルチカラーレッドニューインペリアルレッドといった王道の赤色系花崗岩が使用されていました。設置されているオブジェも真っ赤です。

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南広場

京都駅ビルの隠れた名所、南広場。人通りが少なくて静かな空間です。軽い気持ちで最後に立ち寄ってみたのですが…

石材多すぎ。

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大量の石材に圧倒されてしまって、あまり特定はできてません。

 

まだまだたくさんある京都駅ビルの石材

今回の石材探しでは、京都駅ビルの73種類の石材のうち、約20種類の石材を見つけることができました。頑張りましたが、石材コンプリートまで、まだ約50種類もあります。

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屋上の大空広場や0番ホームなどにも石材は隠れていそうです。

みなさんも京都にお越しの際は、ぜひ駅ビルに使われている石材を観察してみてください。「こんな石材があったよ!」という情報提供をお待ちしております。石材上級者の方からの「間違ってるよ!」というご指摘もお待ちしております。

 

追記:宝石発見!

2年前に京都駅八条口ガーネットを含む石材を見つけたので、載せておきます。インドの花崗岩チダホワイトかな。 ブラジルの花崗岩サモアでした*2

ちなみに八条口側はJR西日本ではなくJR東海の建物なので、京都駅ビルの範囲外です。よって73種類の石材には含まれません。お間違えなく。

 

リンク

  • 街中での石材探しのお供にどうぞ。
  • Togetterまとめ(ふとんくんが一連のツイートをまとめていました)

参考文献

  • 吉村隆男「新京都駅ビルの石」
    (日本地学研究会『地学研究』46(4), p.p. 244-246, 1998-03
  • 『原色石材大事典』(全国建築石材工業会, 2016)
  • 『現代の建築家《原広司》』(SD編集部, 1995)

散策日:2018/05/13

*1:画像では「レッドトラバーチン」と同定していましたが、名古屋市科学館・西本昌司さんのご指摘により「ロッソアリカンテ」であると判明しました。

*2:ご教授くださった西本さん、ありがとうございます!